「京都・数学の哲学研究集会」のお知らせ

下記の通り数学の哲学に関する研究集会を開催いたしますのでお知らせいたします。

Date:5月16日(土)
Place:京都大学吉田キャンパス中央総合研究棟2号館1階第10演習室(こちらの地図を参照)
Time table:

1000-1100 久木田水生(京都大学):「数学における非モデル論的実在論
1100-1200 稲岡大志(神戸大学): 「二つの形式化から見る幾何学の構成と証明」
休憩
1330-1430 大西琢朗(京都大学):「基本論理と反映原理」
1430-1530 岡本賢吾(首都大学東京): 「シークエント概念について」
休憩
1600-1700 竹内泉(産総研):「様相論理による通信の安全性の記述」
1700-1800 吉田聡京都大学):「構成的数学教育について」

皆様のご参加をお待ちしております。

以下に、各発表の要旨を掲載します(要旨のpdf版はこちら)。

久木田水生(京都大学)「数学における非モデル論的実在論

数や集合などの数学的対象は私たちが日常的に接する事物とはまったく異なっているように思われる.そのため多くの数学的実在論者は,日常的事物とは異なる種類の存在を数学的対象に与え,そしてそこに数学的言明の真理を結びつける.その際,彼らは暗黙の内に,ある種のモデル論的あるいは真理条件的な解釈を前提している.
しかしながらモデル論的な解釈は数学の言明を理解する唯一の方法ではない.1つのオルタナティブとしては,操作的な解釈がありうる.この解釈においては,真理の概念は余剰であり,また数学的言明が何か数学の外にある対象に言及することも要求されない.ある表現の意味はその使用や機能を規定する規則によって完全に決定され,真理の概念は証明可能性や構成可能性の概念によって置き換えられる.
この解釈に基づき,私たちは次のように結論する:数学的実在とは,特定の対象について主張されるものではなく,不特定の対象に対して許容される操作,そしてそれらの対象と,操作の結果生み出される対象との間の関係について主張されるべきものである.さらに私たちは,このようなものに対して実在性を主張することが哲学的に可能なのか,可能だとすればどのようにしてかを,実在論を擁護する数学者たちの議論を参照しながら,検討する.

稲岡大志(神戸大学)「二つの形式化から見る幾何学の構成と証明」

幾何学とは図形を研究対象とする数学理論である。実際、ユークリッドの『原論』においては、さまざまな定理が図形と文を用いて証明されている。しかし、数学者や哲学者は図形を誤謬の源泉とみなし、幾何学から図形を除去しようと試みてきた。ヒルベルトによるユークリッド幾何学の形式化はその産物であると考えることができる。この路線にしたがうと、ユークリッド幾何学の対象は意味を欠いた構文論的体系のモデルでしかなく、幾何学の固有性もまた見失われてしまう。しかし、近年になり、ヒルベルトとは別のタイプのユークリッド幾何学の形式化が登場している。この形式化は、ヒルベルト的形式化とは異なり、図形を正当な構文論的対象とみなし、ユークリッド幾何学の形式化を行う。このタイプの形式化は、ユークリッド幾何学が図形を用いて遂行されていることを重要視する点において特徴的である。
本発表では、こうした二つのタイプの形式化から幾何学の哲学的考察としてどのような帰結が引き出せるのかを考えてみたい。

大西琢朗(京都大学)「基本論理と反映原理」

本発表では、サンビンらの「基本論理」の特徴を紹介し、その概念的枠組について検討する。(Sambin, et al., Basic Logic: reflection, symmetry, visibility, 2000)
基本論理は,いわゆる部分構造論理(substructural logics)の一種であり,いくつかの興味深い性質を持つが,本発表で特に注目するのは「反映原理(principle of reflection)」である.
反映原理とは「論理定項とはメタ(シークエント)レベルの構造の対象(命題)レベルでの反映である」という原則であり,基本論理の論理定項はすべて,この反映原理に従って「定義」される.しかしその「定義」の手続きには,一見したところ循環めいた部分があり,サンビンらもその辺りの事情に関しては,はっきりとした言及を避けているように思える.
そこで本発表では,基本論理および反映原理の特徴とそれが持つ意義を紹介した上で,同様のアプローチを採るドッシェンの業績,また従来の証明論的意味論なども参照しつつ,反映原理に従った「定義」の手続きで何が行われているのか,明晰化を図りたい.

岡本賢吾(首都大学東京): 「シークエント概念について」

竹内泉(産総研)「様相論理による通信の安全性の記述」

様相論理によって通信の安全性を記述する方法を、dining cryptgrapher protocol 問題を例にして示す。各人の知識の記述には知識様相論理を用いる。

吉田聡京都大学)「構成的数学教育について」

構成的数学は直観主義論理によって形式化される数学体系であり、そこで展開される理論では、定理はその内容を実行するアルゴリズムと見なせる証明を持つものだけとなる。
本発表では、構成的数学が明らかにする数学的問題と、その問題に関連した構成的数学教育における課題について述べる