"The Sorites paradox and fuzzy logic" (Petr Hajek & Vilem Novak)

International Journal of General Systems, Volume 32, Number 4, July 2003 , pp. 373-383(11)、ファイルはこちらから。1月2日に読了。

砂山のパラドックスをファジイ論理を使って表現する場合、例えばハゲについてのバージョンでは、通常は

  • 「髪の毛0本の人はハゲである」の真理値は1
  • 「髪の毛 n 本の人はハゲである」の真理値は (100,000-n)/100,000
  • 従って「髪の毛10万本の人はハゲである」の真理値は0

と言う風に、髪の毛が一本が増えるにつれて、文「髪の毛 n 本の人はハゲである」の真理値は少しだけ減るという表現が用いられます。
この表現は非常に直感的で分かりやすいのですが、問題は特定のモデル(例えば「髪の毛 n 本の人はハゲである」の真理値は (100,000-n)/100,000と特定の計算法が定まっている)に依存しているため、一般論として「ファジイ的なアプローチとはこういうものだ」と言う話ができないことにあります。
というわけで、HajekとNovakは、ファジイ的なアプローチを公理化し、新しい述語 "Almost true"を導入し、さらにそういう体系のメタの立場をさらにファジイ化することで、砂山のパラドックスのファジイ的な扱い方を一般化してみせています。

述語 "Almost true" による砂山のパラドックスの表現

さて、ファジイ論理の体系 FLn 上で、以下の体系 PAat を導入します。

  1. PAの全ての公理を、真理値1の公理として持つ。
  2. この体系は述語 At (Almost true) を持つ(真理値が「ほぼ真」であることを表現する)。これは以下の公理を満たす。
    1. φ→At(φ)
    2. (φ→ψ)→(At(φ)→At(ψ))
  3. Feasibility を表現する述語 Fe(x) を持つ(これが、例えばハゲの例では、Fe(x)=「x本髪の毛を持つ人はハゲである」と解釈される)。公理として以下を満たす。
    1. x
    2. Fe(x)→AT(Fe(x+1)&Fe(x+x)&At(Fe(x・x)))

コメントですが、

  • At(x)の例としては、以下のケースなどがあり得ます。
    • At(x) =「xの真理値が0.7より大きい」(|x|<0.7→At(x)=0、それ以外の場合はAt(x)=1)
    • At(x) = 「ある単調増加関数 f: R→Rに対し、|x|
  • 述語 Fe(x) は、0から 1,2,3,....となるにつれてほんの少しずつ Feasibile な自然数でなくなっていく課程を表現しています。この体系は、「大きな数」を表現する体系として直感的に理解しやすい面白い体系なのかも知れません。注意ですが、Fe(0)=1である必要はなく、場合によっては任意の自然数 n について Fe(n)=0も可能です。

メタ数学のファジイ化

さて、上記の内容だけならば、単に新しい述語を導入して砂山のパラドックスを書き直しました、というだけです。この論文で新しいのは、ファジイ論理を扱うメタの立場もファジイ論理上の体系であるということです。つまり、ファジイ論理の体系 FLn においては、

  • 公理の集合もファジイ集合であることを許す(つまり、「文Aは体系の公理である」という文の真理値が0.5とかでもよい)。
  • 表記として、文 P が真理値 r であることを、r/P と書くことにする。
  • 従って、「文Aは体系の定理である(T\vdash A)」も、ファジーな真理値(0.5とか、0/1以外の真理値)でもよい(例えば「T\vdash A」の真理値が0.5であることを「T\vdash_{0.5} A」と表記する。

ということが可能になります。そのために、FLnは[0,1]の実数を、真理値をあらわすconstant symbolとしてもちます(RPLのように、[0,1]の有理数だけをconstとして持つとしてもよい)。
以上のことは、元々はZadeahのアイディア(ファジイ論理の公理は、文のファジイ集合である)までさかのぼります。そして、Hajek & Novak曰く、

FLn is a full generalization of the Fregean understanding to inference in logic: the inference proceeds with truth of facts and not with the facts themselves.

だそうですが・・・さすがにこれはどうだろう。

PAatのファジイ化

では、PAatをメタの立場からファジイ化してみましょう。体系 Tat は以下の様に構成されます。

  • PAatの全ての公理は、真理値1でTatの公理となる。
  • 砂山への道公理」(axiom of the path to the sorites): ある自然数 m0 が存在して  1/At^{m0}(\bot)

ちなみに、 At^m(x)とは At(At(At(....(x).... ) と Atを m 回適用することを指します。
「砂山への道公理」は、Atを一回適用するごとに真理値がちょっとだけ上昇するため、Atを何回も適用すればいつかは真理値0の文(⊥)でさえ真理値が1になる、ということを指しています。
そして、Tatを以下のように拡張した理論 TFeを考えます。

TFe= Tat ∪{ 1/Fe(0), 1/∀x[Fe(x)→At(Fe(S(x)))], 1/∃x¬Fe(x)}

このとき、以下の結果が証明できます。

(定理4)TFeは無矛盾である

実例

で、例えば、at(x) = |At(x)| として
  at(x)=1∧(1-ε)
(ただしεは十分小さな数)とでもすれば、標準的なファジイ論理による砂山のパラドックスの表現を得ることができる訳です。
さらに、このat(x)の定義を採用すれば、以下の系を証明できます。

(系2)TFe\vdash_{e(n)} Fe(n), ただし e(n)=0∨(1-nε)

個人的感想

えーと、おもしろんですけれど、後半のファジイ論理のメタをファジイ化するという話が、あまり本質的には証明に絡んできていない(At(x)の真理値を別のやり方で表現しているだけのようにも思える)ように見え、それが少し残念です。