ワークショップ 曖昧性と真理値の確定性

「2007年度 哲学若手研究者フォーラム」(@代々木・オリンピック記念青少年総合センター)の場をお借りして、東大のS氏と共同で、ワークショップを開かせて頂くことになりました。7月22日(日)12:30-14:30の予定です。この場を借りて宣伝させて頂きます。要旨は以下の通りです。

ワークショップ 曖昧性と真理値の確定性

日時: 7月22日(日)12:30-14:30

ワークショップの目的

曖昧性は、自然言語を理解するためには避けては通れない問題であるが、曖昧性に特徴的な「砂山のパラドックス」は、古典論理上で矛盾を導くことが知られている。セインズベリー、クリスピン・ライトなど多くの論者は、「xは砂山である」などの曖昧な述語について、古典論理のルールが当てはまらないこと、すなわち境界例は確定的な真理値を持たず、その外延は決して鮮明な境界線を持たない(境界不在性を持つ)と論じている。しかし彼らの議論自身も曖昧であり、さらなる分析が必要である。このワークショップでは、セインズベリーとライトの主張を、真理値の確定性および境界不在性に関する視点から分析し、それらが実際には何を意味するのかを探る。

ytb発表趣旨

この発表では、部分構造論理の集合論の視点から、セインズブリーの議論を分析し、反論を試みる。
R.M.セインズブリーは、集合を使用して述語を定義することとは、述語の外延とその外部との間に鮮明な境界線を引くことであり、一方曖昧さの本質とは境界事例を許す「境界不在性 (boundaryless-ness)」にあるので、曖昧な述語は集合を使用しては定義出来ない、と論じた[1]。
本発表では、セインズブリーに対し、以下の二点の反論を試みたい。
1.「鮮明な境界線」は、集合を使用して述語を定義するからもたらされるのではなく、古典論理が含む論理法則 - 縮約規則 - によってもたらされる。縮約規則なしでは、集合の持つ境界線は固定的で鮮明なものではなく、不安定で時間(証明ステップ)ごとに構成要素が変化していくものとなる。
2.縮約規則のない論理上で、集合の境界の安定性に対応する集合論的性質が外延性である。外延性は集合の同一性に関する性質であり、集合による曖昧性の表現において本質的な役割を果たす[2]。従って集合による曖昧性の表現を分析する際には、セインズブリーのように「集合は境界線を引く(boundary-drawing)」の一言で話を終わりにすることは許されない。
参考文献
[1]Sainsbury, R.M. 1990. "Concepts without boundaries" Vagueness: a reader, Cambridge, Mass.:MIT press, pp. 251-264.
[2]Yatabe, S. Inaoka, H. 2006. "On Evans's vague object from set theoretic viewpoint" Journal of Philosophical Logic 35:423-434.

S氏発表要旨

本発表はC.ライトが一時期、わずかにその方向を模索した、確定性オペレーターを導入してパラドクスを解決するアプローチを紹介し、検討することを目標とする。
C,ライトはソリテス・パラドクスが教えることは、曖昧な述語を特徴づけるには確定性オペレーターの表現力が必要であると論じた[1][2]。しかしながらライト自身が後に明らかにするように、確定性オペレーターは一階の曖昧性をパラドクス無しに特徴づけることができるものの、確定性について我々が認めることのできる推論規則に従えば、高階の曖昧性において再びパラドクスに出会ってしまう[3]。したがって確定性オペレーターを用いるアプローチは、確定性について我々が認める証明論および意味論をさらに検討することを必要とするであろう[4]。
参考文献
[1]Wright, C. 1987. `Further Reflections on the Sorites Paradox', Philosophical Topics 15: 227--290.
[2]Wright, C. 1991. `The Sorites Paradox and its sognificance for the interpretation of semantic theory', New Inquiries into meaning and truth, Harvester Wheatsheaf, 135--162.
[3]Wright, C. 1992. `Is Higher Order Vagueness coherent?', Analysis 52: 129--139.
[4]Williamson, T. 1999. `On the Structure of Higher-OrderVagueness', Mind 108: 127--143.

私の発表は、プラハ・京都科哲コロキアム・産総研で行った発表の修正版に当たります(要旨は京都のものをそのまま流用しています)。