"How to overcome Russell paradox (within fuzzy logic)"

私の発表は13時より19時まで、非古典論理上の包括原理を持つ集合論についての概論的説明です。新しい結果は無し。
色々脱線(矛盾許容論理とか反復的集合観とか)を交えながら6時間しゃべりっぱなし。出席者は幾何系の数学者7名、かなり興味を持ってもらえたようで、色々と活発にご質問をいただきました*1。とても楽しかったです。

発表資料
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要旨

It is well known that Russell paradox shows that the naive set theory implies a contradiction within classical logic. However, in 1970's, it turned out that the theory is consistent within many non-classical logics. One of the most interesting aspect of such set theory is that it forgives the very strong form of circular definitions. However this makes difficult to construct its models.
In this talk, we briefly introduce the case of fuzzy logic.

内容紹介

The comprehension principle (包括原理) は、任意の論理式 φ に対して、{x : φ(x)} の形の集合の存在を保証する。包括原理は Frege や Cantor によって導入された、非常に強力な集合の存在保証原理であり、Frege は一時期古典論理と包括原理によってすべての古典的数学を基礎付け できると主張したことでも知られている。しかし包括原理は古典論理の上では矛盾を導く。すなわち、RussellのPardoxにより、文 「xはxの元でない(¬x∈x)」をP(x)に代入すると、集合 R ={x: ¬x∈x}が得られるが、R∈R を仮定すると¬R∈Rが、また¬R∈Rを仮定するとR∈Rが導出され、古典論理では矛盾が導かれてしまう。
Russell paradox を解決するため、いくつかの解決策が提案された。一番広く知られている解決法は、古典論理は保持するが、包括原理を制限するというものである。その典型的な例が公理的集合論 ZFC であろう。しかし矛盾を回避するための別のやり方も存在する。包括原理を保持するかわりに、古典論理の規則を制限して、矛盾が導出できないくらい弱めるというやり方である。1970年代より、ファジイ論理やグリシン論理など、多くの(古典論理の部分論理となる)論理上で包括原理のある集合論が無矛盾であることがわかってきている。
計算機科学の観点からは、Russellのparadoxは、「R∈Rかどうかのの計算が停止しないことを示している」(R∈R→¬R∈R→R∈Rという無限ループが存在する)と言い換えることができる。従って、包括原理のある集合論は、「停止しないプログラムを扱う理論」だとも考えることができる。近年の計算機科学では停止しないプログラムを扱う数学的理論の研究が課題であり、包括原理を持つ集合論もそのバリエーションとして考えることができる。実際、ラッセル集合Rが示すように、包括原理を持つ集合論は非常に自己言及的で循環的、なおかつファジイ論理上ならば無矛盾な理論である。その意味で、数学的に興味深いものといえるだろう。
一方で、その強い自己言及性が災いして、そのモデル構成は非常に難しいことも知られている。非常に証明力が弱い線形論理上の集合論に関しては代数的なモデルがあるが、ファジイ論理上の集合論に関しては、現在のところ、証明論的手段で作られたもの(「文の無限集合」であり、あまり「モデル」とは呼べそうもないもの)しか存在しない。
本講演では、ファジイ論理と包括原理を持つ集合論について、特にその自己言及性について、基礎的な定義と、いくつかの結果を紹介する。

今回感じたのは、やはり色々な分野の人と話をするのは大切だ、ということです(当たり前の話なんですが)。幾何の人と話をして、モデル構成の話などに新しい視点からの興味がわきました。
今後、機会さえあれば、今回のように積極的にお話をさせて頂こうと考えています。

*1:Skolem-Cantiniの不動点定理を使用したHのQuantifier-Free fragmentのモデル構成の話が、特に彼らの幾何魂を刺激した模様で、もっと強い位相構造を導入してH全体のモデル構成に拡張できないかとか、いろいろご意見を頂きました。