「ヨーロッパ戦後史(上)」(トニー・ジャット)

AztecCabal経由。上巻では1945年から1971年までの東西ヨーロッパの戦後史を、政治から文化や音楽まで、広く深く紹介。とにかく面白く、最高です。冷戦終了後に書かれたおかげで東ヨーロッパの内容も詳しく、またつい最近まで単なる成功物語として書かれていた福祉国家やヨーロッパ統合に関しても批判的に再検討しています。
この本の特徴は、戦後史における人口動勢などの(見過ごしやすい)大きな動きをまず指摘し、それからその影響を論じるという(非常に正当的な)スタイルです。例えば、戦後ヨーロッパの「安定」は、二つの世界大戦における人口減や、ナチスおよび戦後処理における少数民族の「絶滅」や強制移住による民族問題の「解決」によるところが大きいという指摘から始めています。1960年代の「怒れる若者たち」についても、ベビーブーム世代と人口増の指摘から始めます。
だからといって、この本では細かい点がおろそかになっている訳ではなく、宣伝文の言葉を借りれば「どのページにも思いがけないデーターが載っているか、あるいはおなじみの考察に斬新な再考察が加えられている」。冷戦中チェコの小学校教師が「アメリカの労働者は貧しいので掘った穴に住んでいる」と教えたとか、どこで拾って来たのかという小ネタが満載です。
あと、とにかく文章が辛辣で、例えば

ドイツ製の衣服とか食料品への国際需要は皆無と言ってもよく、それはもっともなことだった。(p.492)

とか、

ラカンは特別なケースだった。60年代パリの緩やかな基準に照らしても、彼は当時の医学、生物学、神経学の発展にまったく無知であり、それが彼の臨床や評判を害した様子はないのだ。(p.513脚注9)

とか、言いたい放題。イギリス人の歴史家ってヤツは・・・。