「数学でつまずくのはなぜか」(小島寛之)

講談社現代新書、2008年1月。本日車内で読了。いい本だと思います。「数学に対する愛」を強烈に感じる本で、教育関係者よりも数学科の大学生とかに薦めたいです。
小学校〜高校の数学に関してよく生徒が引っかかる点(負の数のかけ算、幾何の証明、微分など)について、生徒がその点に引っかかるのは生徒の数学力がないのではなく、学校での教え方が生徒の中にすでにある「数学」とバッティングするからだとの立場に立ち、大学数学の立場からそのどこが問題となるかを説明しています。数学者による学校数学批判はよくありますが、学校数学の規範性(p.29: 従って学校数学を批判すれば良いというものでもない)をふまえた指摘は非常に納得します。
また、論理に関して、高校で教える論理で「真理値はあまり役に立たない」(p.94)として、推論規則を教えるべきだというのも、論理学を専門とする人間にとってはうれしい指摘です。幾何の証明問題はRPGのような約束事の世界としておしえるべき、というのもその通りでしょう。
最後に一点だけ言いがかりを。本を読んだだけですが、著者の小島氏はかなり「熱い」人ではないかと思います。それがこの本の魅力になっているのですが、一方、熱さの裏返しか一部で少し感傷的に見えるところもあります。この本の終りで、カントールラッセルや無限に関する話をした後、デデキントの無限の心的構成の話をして、無限はすばらしい、人間はすばらしい、無限はみんなの心の中に存在する!という感じでフィナーレとなるのです・・・気持ちはよくわかりますが、無限の心的構成はさすがにいかがなものかと・・・これって、数学の哲学的正当化の悪い例の一つではないかと思うのですが。