ラッセルのパラドックス:傾向と対策 (3.2.4.2) :ファジイ論理・・・一番狭い意味で (2)

前回はファジイ論理と多値論理の関係について取り上げました。今回は、ファジイ論理の数学的な定義と、ファジイ論理上の集合論について手短にご紹介したいと思います。

(狭い意味での)ファジイ論理とは

他の業界ではともかく、数理論理学におけるファジイ論理とは

  • 古典論理の部分構造論理であり、特に縮約規則に関して弱くなっている(他の規則に関してはいろいろなヴァリエーションがある)
  • 真理値が[0,1]の実数全体となるようなモデルを持つ(が、そのモデルに対して完全でなくてもよい):この意味で多値論理の一種である。真理値[0,1]となるようなモデルのことをここでは「標準モデル」(standard model)と呼ぶ。

という条件を満たす論理の中で、以下の条件を満たすものを指します。

  • 標準モデルにおいて、連続な t-ノルム が定義される。ちなみに*が t-ノルムであるとは以下を満たすものを言う。
    • * は [0,1]×[0,1]→[0,1] の関数であり、
    • x*y=y*x, (x*y)*z=x*(y*z),
    • x1≦x2ならば x1*y≦x2*y であり、y1≦y2ならば x*y1≦x*y2
  • この連続な t-ノルム をどう解釈するかによってどんな論理になるかが決まる。例は以下の通り。面倒なので命題論理に話を限ると
    • ウカシェーヴィチ論理(L) x*y=max{0, x+y-1}
    • ゲーデル論理(G) x*y=min{x,y}
    • プロダクト論理(P) x*y= x×y (実数のかけ算)
  • また、*を使い以下の residuum ⇒ を定義する。
    • x⇒y = max{z: x*z≦y}
  • residuum は「ならば」の真理関数を表現する。
    • ウカシェーヴィチ論理(L) x⇒y = min{1, 1-x+y}
    • ゲーデル論理(G) x⇒y = y
    • プロダクト論理(P) x⇒y = y/x
  • *と⇒を組み合わせて、他の全ての論理結合子を定義する。

つまり一言で言えばファジイ論理とは「連続な t-ノルムによって定義される標準モデルを持つ部分構造論理」となります。

ファジイ論理の共通の枠組み

(後で補足します)

L∀ での集合論

さて、以前紹介したように、ハジェクはL∀上包括原理を仮定した集合論 CL∀で算術を展開し、そこで数学的帰納法を仮定すると矛盾が起こることを証明しました。この集合論における数学の展開可能性の研究には、

  1. L∀は、∀Lより遥かに証明論的に使いやすいため、CL∀における算術の展開可能性は証明論的なテクニックを使うことができ、研究が進めやすい。したがって、「包括原理でどこまで数学が展開できるか」という問題を研究するのにふさわしい枠組みである
  2. また、例えばCL∀で算術に関する定理を証明した場合、その定理は例えばBL∀やMTL∀で証明可能かを問うことで、きめ細かな論理的分析が可能になる

というメリットがあります。
もうここまでくると、ラッセル・パラドックスの分析という当初の話題から外れてしまってきているようにも思えます。ですので、ファジイ論理上の集合論の話はここまでにしましょう。ただし、包括原理を持つ集合論は、今でも研究が進められている分野であることをご理解いただければ幸いです。

次回の予告

次回は多値論理に関する補足として、多値論理の0,1以外の真理値が何を意味していると解釈すべきなのか、を考えてみたいと思います。気長にお待ちください。