「チャパーエフと空虚」(ヴィクトル・ペレーヴィン)

先週土曜日にCの実家近くで購入。原著1996年、主人公は現代ロシアの精神病院の入院患者か1918年ソビエト赤軍英雄のチャパーエフの部隊の政治委員か、とにかく両者を行き来して禅問答をしながら七転八倒する。最後はいつものペレーヴィン節で〆。
ペレーヴィンの小説に頻繁に出てくるテーマといえば「逃亡」。社会主義時代の初期短編集の「眠れ」では、養鶏場のブロイラーが飛んで逃げ出したり、倉庫が自ら漏電を起こして焼身自殺したりと、わかりやすいものも多かった。体制からの逃亡、自由への道。が、資本主義化が混乱だけを招いたこともあってか、だんだん「体制からの逃亡」ではなく「俗世間からの解脱」のウェイトが大きくなってきたようにも見える。本作でもチベット仏教や日本のイメージが氾濫している。俗世間からの完全な解脱は狂気の沙汰であり、だから本作、主人公は精神病院に入院し、ラストは「未来世紀ブラジル」のラストシーンのような感じに。
もちろんこんなわかりやすい話ではなく、ロシア現代小説の旗手だけあってもっと多様な解釈が可能。ネタも満載、第二十回党大会(スターリン批判)やらハリアーに乗ったシュワルツネッガーやら日本の偉大な版画家アケチミツヒデ(フグに当たって最近死亡)やら最高会議ビル砲撃事件やら、聖書的なタイミングでいきなり雄鳥が鳴いたり、気が抜けない。どうでもいいけれど、「胡蝶の夢」のソ連版(p276)とヴォロジンの「第四の男」(p319-359)が笑った。
訳文も読みやすく、色々な点でお薦めです。やっぱり最高。