「ロジカル・ディレンマ」(ジョン・W・ドーソン)

22日に買った本。ゲーデルの決定版伝記。最高です。皆さん買ってください。読んでください。
ゲーデル本人の人物像は素晴らしく面白い。無理におもしろおかしく書こうとしていない点が、余計に面白さを引き立たせている。モルゲンシュタイン曰く、ゲーデルと話すと「すぐ違う世界に」連れて行かれてしまう、ゲーデルは「可能な筋書きを創造しすぎる」(p318)。つまりゲーデルは現実世界においては不確かな前提から力強い推論によってアレな結論を導き出す常習犯だった。「ライプニッツの原稿は組織的に隠滅されている」とか、トンデモ系陰謀論が大好きだったのがその一例だったようだ。この傾向が晩年の分裂病につながったことを著者は示唆している。もちろんこのような点こそ、ゲーデルを偉大な論理学者たらしめた原因の一つであることも示唆しているが。
論理学におけるゲーデルの業績の紹介は非常に精確、ただし一回勉強した人の復習に最適という感じで、初めて読む人にはつらいかもしれない。前回エントリで述べた不完全性定理の導出への流れや、他に帰納関数論から出発して計算可能性の研究を発展させる形でLを構成するまでの流れなど、断片的に知ってはいる内容をうまく整理しており、感銘を受ける。周囲の人間模様も丁寧に書き込まれている。
訳は平易で読みやすいです。お疲れ様でした。私が見つけた誤訳・誤植は以下の通り。

  1. p.99表2のキャプションの「確率表」は「証明可能性表」の誤植では(原文Provability, p67)。
  2. p171の「ほうとう集合論で・・・」は「本当」(原文really)。
  3. p188でのアデーレが庭に置いたピンクフラメンゴの像を「ものすごくすてき」と書いたのは「彼女」ではなく「彼」(原文he described...p188)。
  4. p285注12の「ロッパ」は「ヨーロッパ」。
  5. p334で「ゲーデルガ」は「ゲーデルが」。

ところで最後に一つ疑問を。ゲーデルライプニッツをずっと研究していたのはよく知られているが、それがゲーデルの哲学にどのような影響を与えたのか、もっと具体的な影響関係に関する研究ってないのだろうか。ゲーデルフッサール研究に関しては徐々に結果が出つつあるようだけど。
(1月6日追記:ゲーデルフッサール研究とそのライプニッツとの関連について、論文をintruderさんにご紹介いただきました。ありがとうございます。BSLの掲載号、オフィスのどこかに置きっぱなし・・・)
(6月7日追記:翻訳については、こちらもご覧ください)