「カオスの起源 -数理神経哲学からのアプローチ」津田一郎

「カオス  複雑系の科学と現代思想」(池田研介・青土社)所収。
とりあえず、技術的な問題点はたくさん指摘することができるだろう。ファジイ論理の真理値は「信念の度合い」ではなく「真理の度合い」そのものを表現していると考えるべきだと思うし、「様相」をこの本でのように扱うのは面食らってしまう。
しかし大筋の「力学系として意味論を分析する」というストーリーは、Gupta-Belnapの "Revision theory of truth" (ここでは離散力学系として真理値を拡張した"Revision process"を考える)みたいな例があるので、ある意味王道だろう。力学系という発想は「真理値が時間(証明ステップ)によって変化する」という発想を含む。この点で、縮約規則のない論理の意味論の分析に力を発揮してくれるかもしれない(この辺はプラハでした話と重なる)。
ただしこのような扱いをする場合、普通は

  • 真理値が離散→真理値が収束しない(力学系として扱う)
  • 真理値が連続→真理関数が不動点を持ち、そこを真理値と見なす

という扱いをすることが多い。もちろん実数値に限らず、例えばKleene3値でも不動点を持つことが出来る。Gupta-Belnapでは「力学系不動点を持つことが(嘘つき・Russellといった)真理値のパラドックスを解消するための条件」と結論づけていた。この意味で、fuzzy logicの真理関数で力学系を定義することは、今の段階ではその意義を証明できていないように思われる。