買ってきた本

今まで、単に買ってきただけの本はここでは紹介しなかったのですが、今回は特別。

ハルムスの世界

ハルムスの世界

ハルムス最高。
昔、沼野充義氏の「傷だらけの魅惑」(「永遠の一駅手前」所収)で、ハルムスの作品を紹介していて、それが非常に印象に残っていました。今回、こんなマニアックな作品を刊行してくれた出版社に感謝します。ついでに、解説で言及されていた、ハルムスが出版界から追放されるきかけになった問題の詩は、多分こちら(沼野訳);

あるとき男が家を出た
こん棒片手に、リュックを肩に
遠い旅へと出かけていった
てくてく歩いて出かけていった


まっすぐ歩いて、歩いて
いつでも前を向いていた
眠らず、飲まず
飲まず、眠らず
眠らず、飲まず、食べもせず


ある日の明け方
暗い森に入っていった
それから
それから
それから消えてしまったとさ


もしもだれかその男に
ばったり会ったら
そのときは急いで
そのときは急いで
知らせておくれ

大粛清の真っ最中に、こんな「暗い森」で消えた男についての詩を書いたら、そりゃ逮捕されるでしょう。本人も、それは分かっていたのだとは思いますが、自分の周りで起こる余りの不条理を、表現せずにはいられなかったのでしょうか。
ところで、「永遠の一駅手前」では、いろいろハルムスのエピソードを紹介していて、興味のある方にはお薦めです。ロシアのインテリの間の言い伝えがソースなので、ちょっと「聖人伝」風味がありますが、「アヴァンギャルダの聖人」というのがまさしく自己矛盾的で彼に相応しいのかもしれません。

永遠の一駅手前―現代ロシア文学案内

永遠の一駅手前―現代ロシア文学案内

ついでにもう一冊。

宇宙飛行士オモン・ラー (群像社ライブラリー)

宇宙飛行士オモン・ラー (群像社ライブラリー)

ペレーヴィン相変わらず。表紙も最高。