パラドックス研究会 "A Minimalist Critique of Tarski on Truth" (Paul Horwich)

出席者3人、今回のレジュメはI先生に担当していただく。この論文でHorwichは、最小主義の立場からタルスキの真理理論(と世間で言われるもの*1)を批判する。

  1. 最小主義は、T-図式こそ真理について言えることの全てであると言う立場を取り、真理述語を原始的なものと考える。タルスキの真理述語の再帰的構成は、明示的定義・有限の説明などの条件をクリアするため、T-図式で要求されている以上の内実を真理述語に与える。この点で、最小主義はタルスキ流のアプローチ(とよく世間で言われるもの)を批判する。
  2. 最小主義では、T-図式を適用する対象は、命題である。最小主義とよく似た立場と言われるデフレ主義では、タルスキの真似をしてT-図式の適用対象を文だとしている。しかし、最小主義者は、タルスキ流の有限の説明の要求を拒否するため、わざわざ(哲学者にとって馴染みの概念である)命題を捨て文を使う必要はないと考える。
  3. タルスキ流の人工言語を使用したアプローチは拒否される。人工言語で文の真偽を考える際には、まず人工言語の文を翻訳し、さらにその意味も考える必要がある。しかし、文の真理について考える際にそういう問題にコミットすることが必要だと主張することは、最小主義の前提*2に反する。
  4. 真理に関する階層的説明はタルスキから受け継ぐ。そのモデルを構成してみよう。最小主義の真理理論のモデルでは、タルスキのように真理述語が階層をなすと考えるのではない。そのモデルは、帰納的にgroundedな文の階層を構成していき、最後に単一の真理述語を、任意のgroundedな文に関してT-図式を定めるというやりかたによって、定義する。そこでは、ungroundedな文(嘘つき文)などは、対応するT-図式を持たない*3
  5. この体系では、例えば「任意の命題 p について p\to pが真になる」ことは証明できない*4。つまり、この枠組みでは、真理に関する一般的な性質に関する主張が出来ないという欠点がある。しかし、人間は p\to pの形の命題を真であると見なす傾向を持つ。つまり、 p\to pのような、理論で言及不可能な真理一般に関する性質に関する言明は、あくまでも傾向として説明される。これは、「真理についての基本的な事実に、真理に直接関係しない他の前提を付け加えて真理についての一般化を説明」した訳であり、T-図式を逸脱した内容を仮定して一般的な主張を導出したわけではない。

個人的な感想ですが、5の論法は、デフレ主義などでも応用可能なので、もしかしたら便利な論法なのかもしれません。あと、「命題の方がいい」とか「人工言語はだめ」言われても全く共感できない私は、多分、どうしようもない論理学脳をしているのだと思う。

*1:Horwichが想定しているタルスキのやろうとしていたことが、本当にタルスキのやろうとしていたことかどうかは、大いに議論の余地があると思われる

*2:「T-図式のみが真理について考える際に必要」

*3:が、もちろん「嘘つき文は真だ」と主張すること自体はかまわない;そう主張しても、嘘つき文は対応するT-図式を持たないため、矛盾は導かれない

*4:pがungroundedなときungroundedとなり、T-図式の適用範囲外となる