「完全性」の訳語
昔からゲーデルの完全性定理と不完全性定理の「完全性(completeness)」は、意味が違うのでややこしいという話があります。すなわち、
- 「完全性定理」の完全性:理論Tが完全であるとは、任意の論理式Aについて、AがTで証明可能であることと、任意のTのモデルにおいてAが真であることが同値であることである。
- 「不完全性定理」の完全性:理論Tが完全であるとは、任意の論理式Aについて、AがTで証明可能であるか、もしくは¬AがTで証明可能であるかのどちらかである
前者は「意味論的完全性」とでもよべばいいのかもしれませんが、後者の適切な呼び名がない、とよく言われます。
ところで、任意の論理式 Aについて Aか¬Aかどちらかが証明できることを、非古典論理業界では「否定完全性(negation complete)」って呼ぶんです。非古典論理の一種のパラコンプリート論理の「コンプリート」はこちらの意味です。
だからゲーデルの不完全性定理は「否定不完全性定理」って呼べばいいんですよ。
ただし、「ゲーデルの否定不完全性定理」とかいうと、否定弁証法やら否定神学やらが好きなごく一部の人たちに、変な形でアピールしそうで、ちょっと使用をお薦めするのをためらわれます。