ラッセルのパラドックス:傾向と対策 (3.2.5.1): 補足:ファジイ論理における強化版嘘つきのパラドックス

すみません、ファジイ論理上における自己言及パラドックスの解決に関して、一つ補足を。嘘つきのパラドックスに対する「強化版嘘つきのパラドックス」と全く同じ現象が、ファジイ論理上でもおこります。

ファジイ論理上の嘘つき文

RestallやHajek-Paris-Shephardsonのように、ファジイ論理上で全域的な真理述語を持つ算術を考えます。算術があるので、対角化もでき、自己言及的な嘘つき文を定義できます。
    G ≡ ¬Tr("G")
ただし ¬は否定記号、Tr("P") は文 P の真理値を表します。さて、この文を考えると、当たり前のことですが真理値は0.5です。

強化版嘘つきパラドックス

嘘つきパラドックス(「この文はウソである」の真理値が決められない)に対して、「嘘つき文は真でも偽でもない」として、真理値のギャップを認める解決法があります。しかしこの手の解決法を出し抜く手段があります。これが強化版嘘つきパラドックスです。文「この文は真ではない」を考えます。このとき、

  • この文が真なら、この文は偽となり、
  • この文が偽なら、この文は真であり、
  • この文が真理値が決まらない文だとしても、真理値が決まらない文は少なくとも真ではないので、従ってこの文は真だということになる

というのが強化版嘘つきのパラドックスです。

ファジイ論理上の強化版嘘つき

さて、このファジイ論理版は、以下のオペレーターを使うのが普通です。

  • Δ(x) = 0 iff x < 1
  • Δ(x) = 1 iff x = 1

このとき、文λとして
  λ ≡ ¬Δ( Tr("λ"))
とすると、例えばTr("λ")) = 0.5を仮定すると、Δ( Tr("λ")) = 0ですから、λの真理値は1になる、という結論が出てきてしまいます。
このように、ファジイ論理上で上のΔのような確定性オペレーターを使うと、古典論理上と同じことが起こります。また包括原理を持つ集合論に上のΔを付け加えると、ラッセルのパラドックスを起こします。Δと同じ役割を果たすものとして、ジラードの ! オペレーターなどがあります。包括原理と一緒に使っても矛盾を導かない様相オペレーターを探す試みもいくつかありますが(線形論理上のLASTとかはそうです)、かなり難しそうです。