ラッセルのパラドックス:傾向と対策 (3.2.4.1) :ファジイ論理・・・一番狭い意味で (1)

先日は、[0,1]の実数値を真理値としてとるウカシェーヴィチ無限値述語論理では、包括原理を仮定しても無矛盾であるという話をご紹介しました。今回は、それと非常に紛らわしいファジイ論理一般の話をご紹介しましょう。

ファジイ論理・・・狭い意味と広い意味

さて、ファジイ集合やファジイ論理って、工学ではよく使われる言葉ですが、多値論理とどう違うのでしょうか。
「ファジイ」という言葉の創設者は ザデー(Zadeh) ですが、彼によると、ファジイ論理には二種類、広い意味のファジイ論理(FLw) と、狭い意味のファジイ論理(FLn)が存在します。彼の言葉をまとめると*1

  1. 狭い意味のファジイ論理(FLn)とは、曖昧で正確な情報を持たない状況などで行われる近似的な推論(approximate reasoning)を形式化した論理体系のことで、この意味でファジイ論理は多値論理の拡張となる。
  2. しかし、FLnの目的は、旧来の多値論理と大幅に異なる。FLnの Key concepts は、linguistic variables, cannonical form, fuzzy if-then rule, fuzzy quantification, etc. と自然言語や自然現象のファジイ論理によるモデル化と理解に関するものであり、これらの現象への関心こそ、伝統的な多値論理よりファジイ論理が広い応用範囲を誇る理由である。
  3. 一方、広い意味のファジイ論理(FLw) とは、このFLnの広い目的の意味において、ファジイ集合論と「ファジイな意味で」同義語となる。

言い換えると、

  • 狭い意味のファジイ論理(FLn)=多値論理+工学への応用という目的意識
  • 広い意味のファジイ論理(FLw)=多値論理+目的意識+ファジイ集合論

と言う感じでしょうか。つまり、工学への応用可能性という点が、ファジイ論理の表看板であり、ファジイ論理の価値の大きな部分を占めます。
ファジイ論理は、工学にとって有用なものですが、論理学にとっても、興味深い存在です。少なくとも、論理学は、なぜ多値論理が工学的に広く応用できるのかという理由の説明を試みなければならないでしょう。また、狭義のファジイ論理に登場する多値論理の体系の証明論的性質を調べる必要があります。という訳で、チェコのハジェクを中心として、1970年代終わりから徐々に、1990年代に入ってから洪水のように、ファジイ論理に関する証明論的・代数的研究が盛んになってきました。

次回予告

ちょっと時間がなくなってきたのと、資料を職場におきっぱなしなことに気づいたので、本日はここまで。次回は、狭義のファジイ論理について、証明論的にアプローチしたいと思います。

*1:以下の引用は Petr Hajek. Metamathematics of Fuzzy Logic. p.2 より。